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理数研セミナー主宰 宮田敏美

■1冊だけのテキスト

「理数研の数学」の最大の特徴は,1冊だけのテキストを次第にステップアップしながら繰り返し勉強するという「スパイラルシステム」にあります.「理数研セミナー」を始めて30数年になりますが,開講時の私の初志を端的に表現しますと,テキストと講義を一体化した形での理想的な数学教育というものを追求してみたいということでした.私がそのような志を抱くに至りましたのは,長年の講師経験を通して,高校や予備校での数学の教え方,学び方に大きな疑問を持ったからでした.

 最大の疑問は,使用する教材の多さです.中学1年から高校3年までに用いる数学の教科書・参考書・問題集は,夏休みの宿題や塾・予備校のテキストなども含めると何十冊にもなるのではないでしょうか.しかし,福沢諭吉らが「適塾」で,ただ1冊しかない辞書の順番を待ち,それを引くために寝食を忘れたという例を挙げるまでもなく,この多すぎる教材が,本来地道にしかやりようのない勉強に役立っているとは到底思えません.むしろ,ほとんどすべての生徒は情報の洪水に溺れ,「自分がどこまで理解していてどこから理解していないか」さえもわからなくなっているのが実情なのです.

 大学入試の数学は非常に広範囲にわたっていますが,それでも本当に根本的なことはそれほど多いわけではなく,必要にして十分な内容を一冊のテキストに収めることは可能なのです.ただそのためには,中学・高校の数学の全貌を十分把握し,到達目標を明確に定め,それを各学年各学期に割当て,第1ページ目から最後のページまで一切の無駄を省き,しかも大切なことは一つ漏らさず収めるという方針で著されていなければなりません.

■テキストと講義の一体化

 市販の問題集には入試問題を羅列しただけのものが多いのですが,特に,基礎問題には入試問題をそのまま持って来るなどということはもっての他です.入試問題は所詮試すために作られた問題であり,理解させるために作られた問題ではないからです.そもそも教師は「そこに x という問題があるから,その解法を教える」というのではなく,「X ということを理解させたいから,x という問題を設ける」のでなければならないはずなのです.そのためには,一問一問を教える者自身が創作し,しかもその順序に論理的飛躍を無くすのは勿論のこと,「わかったような気がする」から「わかった」までの感性的な流れまでも考慮して,極めて注意深く配列しなければならないのです.机上でどれほど想を練ろうとも,それだけで理想的なテキストを作ることがいかに不可能なものであるかを,私はいやというほど実感して来ました.或るテーマを理解させるために十分考え尽くしたつもりの一連の問題が,実際に講義してみるとなかなか理解してもらえず,配列あるいは問題そのものを作り直すということなど,始終繰り返してきたことで,長年このようなことを繰り返して練り上げられた「講義と一体化したテキスト」は,他に類のないものと自負しています.

■スパイラルシステム

 理数研の数学テキストは,中学数学部分5章,高校数学部分14章(1〜10章:理系・文系共通範囲,11〜14章:理系範囲)を各10節程度に分けて収録してあります.中学部分は高校数学を学ぶために必要な代数・幾何の基礎部分をできるだけ早く修得すると同時に,高校数学を学ぶときの底力となるような推論能力を養うことを目指します.そして,素数の未解決問題などの話を交えたり,中学数学では用いない記号を紹介することを通して,先ずは数学を好きになってもらいたいと思っています.

 高校部分の各章の問題は難易度別に4ランク(A〜D)に分けてあります.A問題は,教科書でいえば導入部分の解説に当たるところで.定義・定理・公式の説明とその使い方を問題形式にして提示しています.B問題には,各分野の根幹となる事項を網羅してあり,センター試験はもとより,国公立大学の2次試験の典型問題は楽に解けるようになるような問題を収めてあります.C・D問題には,最難関大学の受験にも十分対応できるレベルの問題を収録してあります.そして,1回目にはテキストのA・B問題の解説と演習を行い,最後の章まで終わったら,再び第1章へ戻り,A・B問題を復習しながらC問題の演習へと進み,さらに最後の章まで終わったらA・B・C問題を復習しながらD問題の演習に取り組みます.このようにステップアップしながら何度も繰り返すことから「スパイラルシステム」と呼んでいます.しかもそれを1冊だけのテキストを繰り返すことによって行うという所に注目して欲しいのです.この「理数研のテキスト」1冊をマスターするだけで,極論すれば,たとえ高校に行かなくても東大・京大理系レベルの入試数学を解ける所まで到達できるのです.

 また,当セミナーでは,テキストの解答用紙として専用の統一した「ノート」を用意しています.「スパイラルシステム」を生かすためには,ある章のC・D問題を演習するときに,その章の以前学んだA・B問題のノートも見たいわけです.そのためには時系列のノートではなく,章別にも整理できるノート,つまり便箋式に1枚ずつばらばらにしてファイルできるものでなくてはなりません.理数研の専用ノートは,それに最適なように印刷・穴開けをしてあります.要するに,理数研のテキストを完全にマスターしてもらいたいという私の願いの一つの現われと理解して下さい.

■個性と普遍性

 このようなシステムによる数学には,かなりの「くせ」が生ずるのではないかと心配される方があるかもしれません.しかし,芸術はもとより科学においてさえ,個性を超えた普遍性はあっても,個性を経ない普遍性があるとは思えません.数学のような抽象的な教科では,先ず自分なりの「考え方のくせ」を持つことが特に大切なのです.それをベースにした上で,多様なものにぶつかっていくことにより,普遍性はひとりでに生まれてくるものなのです.

 なお,物理・化学・生物も数学と同様な考え方でテキストを作り,講義を行っております.以上のような趣旨を十分理解していただいた上で,「理数研の数学・理科」に取り組んでみようという意欲と余裕のある諸君の受講を希望しています.

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